

ヤコブ・アガムは、1928年、イスラエルに生まれる。ユダヤ教のラビ(聖職者)を父に持ち、1951年にパリに移り住む。1958年、ソト、ポル・ビュリ、ティンゲリーとともに、キネティック・アートと呼ばれる芸術ジャンルの旗手となる。「人生とは過ぎゆく影であり、この世に不変のイメージとして捉えられるものはなにひとつない」、アガムはここに聖典タルムードとの共通点を見出す。木片やメタルで制作された作品には動きがあり、実に彩り豊かである。見る者の視点の位置や扱われ方によって、作品の見え方が変化する。
1984年ムートン・ロスチャイルドのラベル用に制作された絵画は、ワインが放つ光により、あるいは飲み手が陶酔感を感じることで、そもそも動きのないこの四角形の絵に動きが加わると考えるべきであり、さもなければ、彼の芸術に関する解釈は不完全なものに終るだろう。