ルシアン・フロイドは1922年ベルリン生まれのイギリス人画家・肖像画家。精神分析学の創始者フロイトの曽孫にあたる。ナチスが支配するドイツを逃れ、1933年に父とともにロンドンへ移住する。1939年にはイギリス国籍を取得している。高校卒業段階には芸術の世界を志し、ロンドン中央美術工芸学校およびロンドン芸術大学ゴールドスミス・カレッジで絵画を学ぶ。短期間ではあったが、当時はシュルレアリスムの影響も受けている。1951年に開催されたフェスティバル・オブ・ブリテンにおいて、アート・カウンシル賞を受賞し、キャリアの早い段階でその才能が評価される。
1987年から1988年にかけて、ワシントン、パリ、ロンドン、ベルリンと彼の作品を集めた巡回展が催され、現代具象派レアリスム界のトップアーティストとしての確固たる地位を築く。1995年には、フロイドとフランシス・ベーコンの展覧会が南仏サン・ポール・ド・ヴァンスのマーグ財団美術館で開催される。ふたりのアーティストは親友であり同志であった。作品には、時代の傷跡や現代世界の暴力性が刻まれた人体が、彼なりのヴィジョンで描かれ、挑発力みなぎる作品の展示が話題を呼んだ。2001年に制作された女王エリザベス2世の肖像画は、絢爛であるはずの肖像画規範に真っ向から背くものだった。2008年、彼の作品の一部は、生存するアーティストによる作品につけられる史上最高額で落札されている。ルシアン・フロイドは何よりもまず肉感を描くアーティストである。パールの輝きを持ち、大理石のような模様の、頑強でボリューム感のある肢体の肉感。ほとんど死体のような醜悪なモチーフは、まるで動いているようであり、同時に硬直しているようでもあり、肉感を描き出すことで、裸体や苦悩に満ちた表情に表現の勢いが加わる。
2006年ムートンのラベル作品は、彼の名声を高めることとなった苦悩に満ちた肖像画や裸体画とは距離を置き、ワインを飲む悦びをトロピカルな雰囲気へと楽しく転換してみせた。ブドウ樹は勢いよく育ったヤシノキに、ワイン愛好家は食道楽な表情をしたシマウマに 。
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