

叙情的抽象の先駆者、ハンス・アルトゥング(1904年〜1989年)は、ドイツで哲学および美術史の学を修める。ナチズムから逃れるため、パリへと拠点を移す。1939年には外国人部隊に入隊し、負傷し片足を失う。戦後、フランス国籍を取得する。「私は、キャンバスの上での即興が好きなのだ」と語り、幾何学的抽象を拒み、対して自由と大胆さを重んじた制作活動を推進する。ゆえに、背景はしばしば単色で、キャンバスに爪を立てたような長く黒い線。収集と自由さを、書道を思わせる厳格な表現と融合させる。
1980年ムートン・ロスシルドのラベルは、ほんの小さなサイズの絵画であるが、アルトゥングの作品全体に共通する特徴である、奥行きと今にも爆発しそうなパワーが詰まった作品に仕上がっている。