「ムートンを芸術と美にあふれた空間へと整備する」、敷地内いたるところにこの意気込みが感じられます。スペースとボリュームの見事な調和、精巧なまでに計算された遠近効果、「禅」を感じる庭園通路。柔らかなシンメトリーを描く、シャトー本館を挟むように付けられたふたつのペジメント。ツタの絡まるマンサール屋根のお屋敷は、1885年ヴィクトリア朝様式で建設された「プティ・ムートン」。そして、1960年代から美観改修工事が繰り返されてきた「グラン・ムートン」。前者は縦の美、後者は横の美。このコントラストも実に見事です。
「ブドウの大海原に突き出る、黄金に輝く石造りの巨大ファサード」
グラン・ムートンには「アール・ド・ヴィーヴル」つまり、おもてなしの心のすべてが詰まっています。館内には個性的スタイルの数々の広間。「コロナードの間」にはブドウとワインを讃える絵画の優品。「デュナンの間」には、著名漆アーティスト、ジャン・デュナンが、客船ノルマンディー号のために、収穫の舞をテーマに1930年頃制作した作品が飾られています。天井部分の傾斜が特徴的な「すべり台(トボガン)の間」には、タペストリーや像が置かれています。貴重な樽が並べられている「グラン・シェ」を過ぎると、旧育成庫を改修して設立された「芸術の中のワイン・ミュージアム」へと通じます。17世紀ドイツの稀少な金銀工芸品の数々に加え、ワイン用水差し、杯(coupe)、脚付きの杯(hanap)など、ナポリ王室ゆかりの宝物。骨董品、中世のタペストリー、絵画、象牙細工、ガラス細工、中国および日本、ペルシャの磁器…豪華絢爛なコレクションです。数多の作家、数多のフォルム、文化や宗教を異にしても、ワインと芸術がつむぐ、豊穣を象徴する不朽のメッセージに満ちた、魅惑のアートスペースです。