

ドイツ人画家であるバゼリッツは、本名ハンス=ゲオルグ・ケルン。1938年、旧東ドイツ・ザクセン地方のドイチュバゼリッツに生まれ、故郷の町名をアーティスト名に使用する。東ドイツを去り、20歳の時に初めて近代美術と出会う。
彼の絵画作品は、活動当初から異彩を放っており、偶像破壊的な自由な表現や、衝撃的モチーフ(切断された足、変形したペニス、絶望的な顔つき)を取り上げることから生まれる挑発威力、あるいは、アントナン・アルトーおよびボードレールの説くところの、精神探究へと繋がる破壊的暴力を特徴とする。1969年、初めてモチーフを逆さに描いた作品を制作する。その後の作品にはこの手法が継承され、こうすることでアーティストは描く対象であるオブジェとの「距離を新たに」模索する。かくして、具象派芸術との関わりを断絶することなく、見る者の視点に真の意味で大きく転換を加える効果が生まれる。
1989年ムートン・ロスチャイルドのラベルには、逆さの牡羊が描かれており、この年に起こった重大ニュースであるベルリンの壁崩壊とムートン伝統のシンボルを結びつけている。ラベルにアーティストが記したメッセージ「Drüben sein jetzt hier」は、「(壁の)向こうも今ではこちら」を意味する。