小説家、劇作家、映画監督、画家、イラストレーター、肩書きは多々あれど、ジャン・コクトー(1889年〜1963年)はなにをさておき詩人である。形式美と、フランスの古典的伝統に、古代神話の新たな表現を取り入れたことで知られる。意表をつく、いわば全ての慣行に真っ向から挑むという独自の意欲から、シュルレアリスムにも属している。「ジャンよ、私の意表をついてごらん」とディアギレフに言わせしめる。彼が残した数多くのイラストには、深い視線を送る古代ギリシャの美青年(エフェボス)の横顔が、執拗なまで繰り返し登場し、コクトーは、1947年ムートン・ロスシルドのラベルにも同じ青年を描いている。
残念なことに原画は消失してしまい、ここに展示されている作品は、ジャン・マレによるものである。ジャン・コクトーの親友であり、有名俳優であり、評価の高い画家でもある。フィリピーヌ・ド・ロスシルドからの依頼を承諾し、コクトー作品はマレによって見事に複製されている。