

ソラー・イーリス・オブ・ムートン
オラファー・エリアソンが手掛けたシャトー・ムートン・ロスチャイルドのワインラベルは、抽象的な表現を用いてシャトーを描いたポートレート作品と呼べるでしょう。
作品は上下2部で構成され、上部は金色に輝く色彩が昼を、深青のニュアンスで彩られた下部は夜を象徴しています。ラベル中央は円形にくり抜かれ、ボトル内のワインがその姿を覗かせます。丸窓を囲むように楕円が連なり輪を形成し、これは地球から見た太陽の動きを描いています。地球として描かれた場所、そこはまさにシャトー・ムートン・ロスチャイルドが位置するポイヤックに他なりません。作品を上下に分断する中央線の上には、連なる輪が金色の背景上に白い弧となって浮かび上がり、一番下の弧は1年で昼が最も短い日を、一番上の弧は昼が最も長い日を表しています。作品下部にはぶどう畑からは確認することができない地平線下の太陽の動きが濃色の背景上に白く描かれています。
太陽の軌道図上部には、引き伸ばされた八(8)の字型のモチーフが弧を均等に区切るように配置されています。これは1年を通して同じ位置から太陽の動きを記録し作成されたもので、アナレンマと呼ばれます。天文学においては古くはより正確な時刻を把握するために日時計と並んで用いられました。アナレンマの形状から地球の軌跡と時の経過が視覚的に確認できるのです。太陽の軌道図、天文学的現象、航海用ツール… エリアソンはこれらにインスピレーションを得た作品を数多く発表しています。例えば2009年には同じ時刻・位置から1年を通して空を撮影し、アナレンマを画像として捉えた作品を制作しています。
オラファー・エリアソン曰く、「Solar Iris of Moutonは、1年を通してシャトー・ムートン・ロスチャイルドでの日出と日没を記録しマッピング(図化)したものです。ぶどう樹の生育サイクルと深い関連性を持つ昼と夜の時刻が細かに記録され、いわば太陽がぶどう畑に記し残したサインとも呼べるでしょう。そこに私たちはその年のぶどうの生育状況や、ワインが生まれた土地とワインとの密接な関わりを知ります。ワインを味わう、それは、産地の環境、土壌、天候、季節、光… それらとつながるということ。ラベル作品の中央にある丸窓(オクルス)から姿を覗かせるワイン。ワインには、金色に輝く天体、地球、そして空が潜んでいます。ごく狭い地域の象徴であると同時に、天空を映し出すものでもあるのです」
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