ジェフ・クーンズは、1955年、ペンシルベニア州ヨーク生まれのアメリカ人彫刻家。ボルチモア、そしてシカゴで美術を学び、ポップアートおよびレディメイドの手ほどきを受ける。1976年には拠点をニューヨークへと移し、ストック・ブローカーとして生計を立てると同時に、画廊オーナーであるダニエル・ワインバーグやイリアナ・ソナベンドの支援を受けながら、アート作品制作をスタートさせた。1986年、ステンレス製の風船彫刻「ラビット」を発表。その後、反消費社会メッセージ作品「Luxury & Degradation」シリーズによって世に知られる。また、1991年から1994年の期間、イタリア人ポルノ俳優、チチョリーナと私生活を共にしており、ふたりの性生活をテーマとしたグラフィックシリーズ「メイド・イン・ヘヴン」も大きな話題を呼んだ。
現代美術界における主要アーティストとしての地位は、「パピー」の発表により確立された。「パピー」は花で飾られた巨大彫刻作品で、1997年、ビルバオのグッゲンハイム美術館エントランスに展示されている。「ピンク・パンサー」(1999年)や、10万本の花で形作られた彫刻作「スプリット・ロッカー」(2000年)は、多くの美術コレクターらが熱望した。2008年にはメタル製「バルーン・フラワー」(マゼンダ色)を発表し、生存している美術家による作品としては史上最高額で落札されている。ヴェルサイユ宮殿を会場にクーンズ作品17点を集めて開催された展覧会は、熱心な議論を呼び起こした。当時、クーンズはこのイベントを「我が人生の頂点である」とコメントしている。
マルセル・デュシャン、そしてアンディー・ウォーホルの後継者として、クーンズは、ポップアートの伝統とキッチュな美学の適確な融合を試みる。身近なオブジェや大衆文化のアイコンを好んで扱うのはそのためである。多種多様な技法を用いて、彩りある輝きを加え、向きを変え、馴染ませ、創り直す。
クーンズは、この作品背景のように古代美術も素材として取り上げ、ここにはポンペイに残るフレスコ画「ヴィーナスの生誕」が描かれている。銀色のデッサンを重ねることで、ヴィーナスを一隻の船へと変容させる。明るい太陽のもと、遥かかなたへ甘美なワインを輸送する船であり、ワインが注がれた盃であり。
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