2020年 シャトー・ムートン・ロスチャイルド ピーター・ドイグがラベルを飾る

シャトー・ムートン・ロスチャイルドは2020年ヴィンテージのラベル作品をスコットランド出身のイギリス人アーティスト、ピーター・ドイグに依頼しました。同氏はロンドンとトリニダード・トバゴを拠点に活動を展開しています。

今回の作品を制作するにあたり、ドイグはセザンヌとゴッホの作品からインスピレーションを得て、独自の魅惑的な夢の世界を描いています。ギターの音色が不思議な魔力を放ち、息を吹き込まれるかのように夜の闇の中に生まれるグランヴァン。

描かれているのは夢想の中の光景です。ぶどう畑での作業に携わる人物を前面に描き出すことで、ドイグはぶどう栽培とその収穫への賛辞を作品に込めました。ミレーやゴッホ、ベーコンといった、ぶどう畑や農園で働く人々を描いた作品をこれまで世に送り出したアーティストたちとの繋がりを希求しました。作品内のギター奏者は、セザンヌが描いた農夫やゴッホの「種まく人」へのオマージュであると同時に、トリニダード島の友人アーティスト「Embah(エムバ)」ことEmheyo Bahabbaにインスピレーションを得ています。エムバはドイグがパリで個展を開催した際、レセプションパーティーに「クアトロ」と呼ばれる四弦ギターを持参。ギターの音色とともに自作のポエムを披露しています。

Artwork for the Château Mouton Rothschild 2020 label.
From left to right: Peter Doig, Philippe Sereys de Rothschild, Julien de Beaumarchais
de Rothschild and Camille Sereys de Rothschild

「この作品には部分的にワインづくりの裏側が描かれています。舞台裏の光景。ワインが最後にボトルに詰められるまで、ワインづくりのあらゆる工程において作業を担う人々、彼ら労働者たちへの頌歌と言いましょうか。ぶどう畑で誰かが思わず歌を口ずさむかのように、ロマンティズムに彩られた夢想。ゆっくりと時間が流れる詩的な世界。昼とも夜ともつかない、むしろその中間、目覚めと眠りの狭間。夢の中でぶどう収穫の世界を旅するかのような、この絵はそんな旅の情景を表現しています」 Peter Doig

ピーター・ドイグは1959年、イギリス・エディンバラに生まれました。トリニダード・トバゴとカナダで育ち、セント・マーチンズ・スクール・オブ・アートおよびチェルシー・スクール・オブ・アートで美術を学ぶためにロンドンへと拠点を移します。2002年以降、ロンドンとトリニダード島を拠点に制作活動を展開しています。
ピーター・ドイグ作品は世界の主要アートスペースで展示されてきました。2008年にはロンドンのテート・ブリテン、2013年にはエディンバラのスコティッシュ・ナショナル・ギャラリー。その後、2015年にはスイス・バーゼルのバイエラー財団、2020年には東京国立近代美術館において個展が開催されています。また、数年にわたって教鞭をとり、2004年から2017年の期間は主にドイツ・デュッセルドルフ美術アカデミーにおいて教授を務めています。1995年から2000年にはテート・ギャラリーのアドミニストレーターとしても活躍しています。

ドイグは実に多種多様なメディアから得た素材を作品制作に用いています。テクスチャーの違いや原色および間色の使い方、ソラリゼーションやハロ現象といった光の効果、定めることのない調整など、マチエールを大切にした制作姿勢を貫き、彼の作品は一義的な解釈に収まりません。夜の闇、ハロや霧、散りばめられた小片や星たち、枝で組まれたラビリンスや水面反射に包まれた景観が印象的です。

田園詩的な自然を目の前にして人々が覚える感嘆や畏怖、ピーター・ドイグはそれらの感情に満ちた空気感や背景を絵画として描き出します。

Peter Doig hands over his painting to Julien de Beaumarchais at Château Mouton Rothschild

ジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスシルドは、シャトー・ムートン・ロスチャイルドの共同オーナーであり、同シャトーの文化芸術事業を担当。ヴィンテージごとに発表されるラベル作品制作を担当いただく美術家との関係構築をマネジメントしています。 「今回のラベル制作には、キャンバスおよび絵画的マチエールを用いて主題を具象的に表現するアーティストを希望しました。ピーター・ドイグは類い稀な色彩感覚で、絵画という分野に注力した活動を展開しています。彼の作品は世界中の美術館にて展示されており、現代の美術界では圧倒的知名度を誇るアーティストです。絵画を取り巻く現代アート界において、彼が用いるテクニックと世界観は非常に独特です。描く主題は極めて多様で、実に分類が難しい。誰にも真似の出来ない、「彼」独自の世界を構築することに成功しています」

フィリップ・ド・ロスシルド男爵は、シャトー・ムートン・ロスチャイルドを芸術と美の象徴として整備したいと熱望されました。1945年以来、シャトー・ムートン・ロスチャイルドのワインラベルには毎年異なる現代画家の作品が飾られています。ダリ、セザール、ミロ、シャガール、ピカソ、ウォーホル、スーラージュ、ベーコン、バルテュス、タピエス、ジェフ・クーンズ、デイヴィッド・ホックニー、アネット・メサジェ、オラファー・エリアソン… スタイルも出身も様々な、錚々たるアーティストが名を連ねる、極めて貴重な現代アートのコレクションが形成されています。

1981年には「L’Art et l’Etiquette(芸術とワインラベル)」と題して、これら作品を一堂に会する展示がフィリピーヌ・ド・ロスシルド夫人によって企画・開催されました。2013年以降はシャトー・ムートン・ロスチャイルド敷地内の常設展示スペースにてご鑑賞いただけます。

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