ピーター・ドイグは1959年、イギリス・エディンバラに生まれました。トリニダード・トバゴとカナダで育ち、セント・マーチンズ・スクール・オブ・アートおよびチェルシー・スクール・オブ・アートで美術を学ぶためにロンドンへと拠点を移します。1991年、ホワイトチャペル・アート・ギャラリーで開催された展覧会をきっかけに、瞬く間に国際的な名声を獲得。1994年にはターナー賞にノミネートされ、2008年にはドイツ・ケルンのルードヴィヒ美術館が主催するヴォルフガング・ハーン賞を受賞しています。2002年以降、ロンドンとトリニダード島を拠点に制作活動を展開しています。
彼ほど絵画という表現方法の可能性を切り拓いてきたアーティストは同年代では稀であり、これまで30年余りの活動期間、ピーター・ドイグ作品は世界の主要アートスペースで展示されてきました。2008年にはロンドンのテート・ブリテン、2013年にはエディンバラのスコティッシュ・ナショナル・ギャラリー。その後、2015年にはスイス・バーゼルのバイエラー財団、2020年には東京国立近代美術館において個展が開催されています。
また、数年にわたって教鞭をとり、2004年から2017年の期間は主にドイツ・デュッセルドルフ美術アカデミーにおいて教授を務めています。1995年から2000年にはテート・ギャラリーのアドミニストレーターとしても活躍しています。
自身の記憶の中から汲み取ったイメージを作品に投影することの多いドイグですが、その他にも写真、フィルム映像、新聞、絵はがき、観光パンフレット、レコードジャケットなど、実に多種多様なメディアから得た素材を作品制作に用いています。テクスチャーの違いや原色および間色の使い方、ソラリゼーションやハロ現象といった光の効果、定めることのない調整など、マチエールを大切にした制作姿勢を貫き、彼の作品は一義的な解釈に収まりません。そのため、常に距離を保って主題と向き合うよう奨励しています。夜の闇、ハロや霧に包まれた景観、散りばめられた小片や星たち、枝で組まれたラビリンス、水面反射… これらの情景に描写的表示は一切ありません。
田園詩的な自然を目の前にして人々が覚える感嘆や畏怖、ピーター・ドイグはそれらの感情に満ちた空気感や背景を絵画として描き出します。
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